Bra (ブラ) 2006/9/13
◆スローフード運動の町
ブラはスローフード運動発祥の町で、その協会本部がこの町にある。スローフード運動については島村菜津さんの著書『スローフードな人生』に詳しい。
前に一度読んだことがあり、「ブラ」という地名を覚えていたが、今回のピエモンテの旅で、アルバからトリノへ向かう途上にその町があることに気づいた。「途上」というよりは、アルバの隣、といった方が正しいかもしれない。
日程的に泊まることはできないが、ランチならばとることができるかも知れないと思い、前泊のフォンタナ・フレッダでのランチの予約を出発10日ほど前にキャンセルし、ブラに寄ることにした。
“ブラ”の発音・アクセントは「ぶらぶら歩く」の“ぶら”ではなくて「ぶらっと歩く」の“ぶらっ”で、「ラ」にアクセントがあるようだ。このことはアルバ近郊のアグリツーリズモに泊まった際、オーナーから旅行の予定を訊かれ、“ブラ”と答えたら“ブラッ”と直されて気がついた。
◆行く
前泊地は、アルバから南に20キロほど離れたところにあるワイナリー、フォンタナ・フレッダ。ここからブラに向かうにはタクシーでアルバに戻りFS(鉄道)で行くか、直接タクシーで行くか、決めかねていたが、前日タクシーでフォンタナ・フレッダに着いたときにドライバーのブルーノさんと交渉成立。40ユーロでブラまで行ってもらうことになった。
約束の時間11時きっかりに、ブルーノさんのプジョー607が颯爽と現れた。今日で3日目となる。
『ブラのどこまでか』と訊かれたので、『“BOCCONDIVINO”というリストランテに行きたい』というと、さすがに有名店らしくすぐ了解してくれた。
ブラまでは約20分。ブルーノさんの話では『今日は市が開かれている』とのこと。その「市」を過ぎたところで降ろされる。『この通りを行ったら左にあるよ。駅はその先、右の方向だよ』と教えてくれる。荷物もあることだし、お店の前まで乗せていってくれればいいのにと思ったが、一方通行なのかなぁと思い代金を払って別れる。
(20分で40ユーロは高いかもしれないが、車がアルバから来てまたアルバまで戻ることを考えるとそうでもないだろう。それでも50ユーロというのを10ユーロまけさせたのだ。)
◆見る
まだランチには早すぎるので、観光をすることにしたが荷物が邪魔だ。そこで“BOCCONDIVINO”に行き、予約かたがた荷物を預かってもらうことにした。
“ボン・ジョルノ!”と大きな声でいうと厨房準備室みたいなところから『こんにちは』と若い男性が出てくる。なまりのない日本語、もしかして我が同胞かと思い『日本の方ですか?』と尋ねると『そうです』との答え。あとは話が早い、とばかりにお願いしたところ快く預かってくれた。同時にテーブルの予約を13時にして町歩きに出かける。
といってもまともな地図もガイドブックもない(インターネットでプリントアウトしたGoogleの地図だけ)。インフォメーションに行けば市内地図がもらえるだろうと思ったがそのインフォメーションがどこにあるかわからない。だいたいはその町のドゥオモといわれるような教会の近くにあるはずだと考えて大きな教会を探すことにした。
とりあえずリストランテの前の通りをまっすぐ行く。すぐにヴィットリオ・エマヌエーレⅡ世通りにぶつかる。名前からしてここがメイン・ストリートだろうと考え、左に行ってみるが教会はない。ならば、とばかりに逆に進む。次の左のT字路を見やると教会がある。「ああ、あそこだ」と左折して向かったが近くまで行ってみるとそれほど大きくないバロック様式の教会だった(サン・ロッコ教会)。
あとはやみくもに歩き回り、遠くに教会の塔が見えたので行ってみる。建物の前に歴史的建造物だからなのか看板があり、サン・ジョヴァンニ・バティスタ教区教会だということがわかった。建物の様式はよくわからないがロマネスク様式かもしれない。王冠を細長くしたようなクーポラとその向こうに鐘楼なのか時計の塔が見えた。
しかし広場に面しているわけでもなくインフォメーションも見つからないので、もう市内地図はあきらめ、時間の許す限り適当に歩くことにした。
次に見つけた教会はランバウディ通りに面したサンタンドレア教区教会、これはバロック様式だ。
その先、ガリバルディ通りを渡った向こう側は一段高くなっているが右手の方に大きな教会、サン・トリニタ教会がある。
サン・トリニタ教会を見やりながら進むうちに、ここまで来て自分たちが一体どこにいるかわからなくなり、向こうから歩いてきた年輩の男性にGoogleの地図を見せながら「ここはどこですか(Dove siamo?)」と尋ねると指をさして教えてくれたのが9月20日広場。「ということはタクシーを降りた場所に近いな」と思って広場から見下ろすとちょっと先に降りた場所が見えた。結局ぐるっと一回りしたことになる。
広場から階段で降りると、そこには「市」に出ている肉や魚やチーズなどの食料品を扱うお店があったがそろそろ店じまいのようだ。
まだお昼を予約した時間には間があるので、トリノまでの列車の時刻を調べがてら駅まで行ってみることにした。
時刻表を見るとトリノまで近いわりには、列車の本数が少ない。適当な列車としては14時32分しかない(ということは食事の時間としては1時間しかない)。
◆スローフードの町でファストフード?
駅から戻り、リストランテへ着くとちょうど13時。さきほど荷物を置かせてもらった厨房準備室の右に階段があり2階へ。2階はL字型になっていて2部屋に分かれている感じだ。階段から上がるとLの字の角に当たるが、まっすぐ進みLの字のいわば下の方の部屋へ案内される。テーブルはもうほとんど満席に近い。さすがに地元の有名店だけある。見た感じ普段着の人たちばかりで地元の人ばかりのようだ。
ここでは、生肉のミンチがソーセージになっているものが名物(サルシッチャ・ディ・ブラというらしい)なのでそれが入っている前菜(carne cruda e lardo)を注文する。もう一皿の前菜は魚っぽいのを選ぶ。
それに野菜を取りたがっていた同行者のためにグリーンサラダを頼み、3人でシェアする。carne cruda e lardoにはソーセージのほか生肉ミンチそのものとスライスされたラードが盛り付けられている。脂ものはあまり好きではないけれど、このラードを少し食べてみたが燻製のようでなかなかいい味わいだった。もう1品の前菜は全く趣が違う味付けだったがこれはこれでワインが進む。
プリモはシェアせずめいめい好きなものを頼んだが弟はタヤリン、私と兄は同じ三角の形をしたパスタにしたが名前を思い出せない。
食べ終わった頃を見計らって食後の飲み物の注文を取りにきたが、残念ながら「もう時間がない」ということでお勘定をしてもらう。
もっと早い時間を予約すべきだった。というわけでスローフードの町でファストフード!といことになってしまった。
最初に出会った日本人スタッフ(5年間修行中)に再び1階の荷物を置いてある厨房準備室に案内してもらいお礼と『頑張って下さいね』と言い、店をあとにしてブラ駅へ向かう。
◆食べる
お店の名前 Osteria del BOCCONDIVINO, via Mendicita’ Istruita, 14
www.boccondivinoslow.it
スローフード協会本部と同じ建物にある。筋金入りのスローフード運動の店なのか看板にシンボルマークのカタツムリが描かれている。
島村さんの『スローフードな人生』、山岸みすずさん・井川直子さんの『麗しの郷ピエモンテ』でも紹介されている。
トリノからも列車で40分ほどと近いのでもう1回行こうと思ったほど。
食べたもの 前菜2品(carne cruda e lardo、いわしの切込みみたいなもののトマトソース 7ユーロ×2)
プリモ3皿(Tajarin al sugo di salsiccia 7ユーロ、もう1品×2、5ユーロ×2)
グリーンサラダ(3ユーロ)
ワイン Dolcetto D’Alba Munfria 2005 , Pelissero (9.5ユーロ)