◆行く
バーリでの2泊の中1日、世界遺産のカステル・デル・モンテか、鍾乳洞のカステッラーナ・グロッテのどちらかに行こうと思っていたが、交通の便を考え結局カステッラーナ・グロッテに行くことにする。
ここは、実はアルベロベッロとバーリの間にあり、アルベロベッロからバーリに向かう途中に立ち寄ることもできたが、旅の荷物を持っては難しいということもあって予定通りバーリからの日帰りにする。
8時にホテルを出て歩いてバーリ駅へ向かう。
駅の中でFSE(私鉄Sud-est線)の切符売場を探すが見つからない。あまり余裕を持たずに出かけてきたため発車時刻まであと5分足らず。FSの切符売場で訊いたら『11番線』、早口で『右へ曲がってずっと行く』みたいなジェスチャ。
時間がないので訊き直すこともせず、とりあえず切符売場すぐ近くの入り口から出て11番線へ通じる通路を探すがわからずどんどん駅から離れてしまう。カヴール通りまで行ってしまいの陸橋を渡り右折して、ようやく駅の裏側にあるFSEの入り口を見つけた。そこから階段をあせって下ったその時、乗るはずの列車は出て行ってしまった。
あとでよく考えると駅員のジェスチャを勘違いしてしまったようだ。というのはアルベロベッロからバーリに着いた時には、バーリ駅の一番奥のホームに降り立ち、地下道を通って駅の正面側に出ていたからだ。
FSEの切符売場はこのホーム横の待合室を兼ねた小さな建物の中にあった。切符を買う時、『次は9時52分、1番線(これは実は11番線)から』と念を押される((1人往復5.2ユーロ)。1時間半以上もあるので、駅北側の下町を散策して時間をつぶす。
列車は少し遅れて9時58分発車、日本人旅行者も何人かいた。
10時45分ころグロッテ・デ・カステッラーナに着く。下車する時に、朝、駅で会った日本人の女の子が『ここですか?』というから『そうだよ』と答えると一緒に降りてきて、『駅の名前が違いませんか?』。『アルベロベッロに行くの?』『そうです』『じゃここではないよ』。
お互いの誤解で彼女のスケジュールを狂わせてしまうところだった。同じ列車に乗っていた女性2人組、若い夫婦はそのままアルベロベッロへ(だと思う)。
この駅はまるで原っぱのようなところにあるホームだけの無人駅。グロッテ入り口まではすぐだ。大きな通りに面して土産物屋や食堂があり観光地ぽいといえばいえるが平日のせいかそれほどの人出はない。
この通り右手の食堂の先にゲートがあった。横断幕のようなこげ茶色の横看板に《グロッテ・デ・カステッラーナ入り口》と書かれているのですぐわかる。その奥には7〜8階建てほどの高さのあるタワーのような建物が見えた。
◆見る
ゲートをくぐってタワー棟の方に行くと左手に切符売場があり付近には入場待ちの数十人の観光客が集まっている。
売場で少し並んだが11時から始まるガイドツアーにぎりぎり間に合った(1人13ユーロ)。
先ほどの建物の中に入るとすぐ『English?』と訊かれたので『Guide?』と訊き返すとうなずくのでEnglishの方に入る。その場所で英語組とイタリア語組にふるいわけられ、先にイタリア語組が進んで行く。英語組には日本人は我々だけだった。
ガイドは若い女性でドイツ人とのハーフだと自己紹介し、ドイツ人が多そうなので英語とドイツ語で説明するという。それから右手をくるっと回し“アンディアーモ”(レッツ・ゴー)と言ってガイドツアースタート!
まず階段を降りるとパンテオンのように天井に穴があいているとんでもなく大きなドームに入る。馬鹿でかい空間に圧倒される。天井の穴からは日が差し込んでいる。
ドーム中央にはモニュメントを思わせるような石筍のかたまりが、そしてドームの壁一面はつららのような石筍で覆われていて凄い。
しかしこれはここから始まる洞窟探検のほんの序章だった。ガイドを先頭に総勢30人ほどが列をなして進む。通路がきちんと整備され足元の照明もある。天井も高く圧迫感はまったくない。ところどころで立ち止まってガイドを取り囲むようにして説明を受ける。まず英語、それからドイツ語の説明がある。
自然が造った石筍のかたちに特徴があるものはイタリアらしく《ローマ建国のロムルス・レムスに乳を飲ませるの狼》、《ピサの斜塔》などと名づけられていて、なるほどと思う。とりわけ狼はまるで彫刻されたかのようにそっくりだ。
そのほか、駱駝、インディアン、コブラ、天使の廊下など。
一番奥のグロッタ・ビアンカ(白い洞窟)まで行って来た道をまた戻ったが、どこかが上り、下りの一方通行になっているらしく前の組や後の組とすれ違うことはない。
その下り見学路で石筍の聖母子像を見た。これはそれまでの名づけられたものと違ってものすごく小さい。この小さいものに聖母子像と名づけること自体イタリアを感じさせる。
石筍の長い廊下があったり、ドーム手前の最後のところにはとうもろこし、カリフラワーの形そっくりの石筍もあり驚きの連続だった。
実際に行くまでは個人で歩くものと思いガイドブックに2時間コースとあったので1時間半くらいで見終えるつもりだったが、2ヵ国語でしかもイタリア語組のあとだったので2時間10分かかってしまう。
1938年に発見されたが、それまでは例の天井の穴、それは地面の穴なのだがそこへ農民がゴミを捨てていたという。それを今のようなすごい観光対象までにしたイタリアの観光に賭ける情熱、コストは大変なものだ。電気もあり、要所要所がライトアップされ、通路(というより道路といってもいいかもしれない)や手すりがしっかりと整備されている。
こんなスケールの大きい鍾乳洞が、南イタリアのしかもやや交通不便なところにあるので日本ではあまり知られていないのは残念だ。
◆帰る
バーリに戻る次の列車は13時53分、30分足らずしか時間がないがお昼を食べていこうと駅に一番近いリストランテに入りテーブルに座ったもののお店のスタッフは誰も来ない。客もそれほどいないので「こりゃだめだ」と席を立つ。
やむを得ず他の店へ行こうと戻ったところバールを見つけたのでパニーノとビールを買い、駅近くのベンチでピクニック気分の昼食をとる。陽射しが強くて暑いがあまり日陰となるような木もなく逃れられないが冷たいビールがうまい。
食べ終わってまもなく列車がホームに入ってきた。何と3両編成の展望車だ。ここは無人駅のため帰りの乗車券もバーリで買ってきていたが、発車してすぐに車掌が乗車券販売のためやってきた。
バーリには定刻の14時49分着。鍾乳洞探検、半日の旅を終える。