ペルージャ外国人大学でイタリア語を学ぶため2010年8月から2ヵ月間、ペルージャで暮らした。これはその9月前半の滞在日記だ。
◆ペルージャに行ったきっかけ
2009年秋の一人旅でクレモナのリストランテでたまたま向かい側のテーブルにいた日本人の若い女性ふたり組と知り合った。二人ともペルージャの留学生でそのうちの一人Nさんと帰国後東京で再会したときにペルージャ外国人大学への留学をすすめられた。ちょうど仕事をやめて時間もあり、イタリア語の勉強を再開したかったのと旅行だけではなくイタリア生活を味わってみたいこと、またもう一人のAさんが引き続きペルージャにいて心強いこともあって8月、9月の2ヵ月の短期留学をすることにした。
9月1日
《蜂蜜屋のおじさんに日本語教育》
月が替わり、家賃を払うためもあって銀行まで現金を引き出しに出かけた。
マテオッティ広場の方に行ってみると・・・・・
普段カフェやバールの大きな傘があるところに市がたっている。
吸い込まれるように行ってみると、まず蜂蜜屋さん。その隣は、トリュフ屋さん、向かいはお菓子屋さん。その隣は八百屋さん。ほかには、チーズ、ワイン、陶器の店など。
蜂蜜屋のおじさんに声をかけられる。『味見できるよ』。小さなものなら買う気がなかったわけではないので、味見をする。
そのうちどこから来たか訊かれ『日本から』というと、”Ciao!!”は日本語でなんと言うのか質問される。『こんにちは、さようなら』というと一生懸命繰り返す。
『これは何というのか?』、『HA CHI M ITSU』というとこれまた復唱。
次に1から数え出すが、『1,2,3,4,5,6,7,9』というのがご愛嬌。相手に言ってもわかるはずもないが『蜂蜜屋さんがハチを抜かしてどうするの?』と突っ込みたくなる。
『自分はAPICOLTURAだけどこれは日本語では?』と訊かれたが、ちょうどそのときお客さんが来たので『あとで辞書で調べてから』と言って店を離れ、銀行に行く。
いったん自室へ戻り、3階の大家さんに家賃を払ってからデジカメを持って再び広場のメルカートへ。
蜂蜜屋さんが繁盛していたので反対側のワインを味見、1本買う。次に蜂蜜屋さんの向かい、お菓子屋さんでビスコッティを買い、また蜂蜜屋さんへ。
待ってましたとばかり、『味見はなんと言うか?』、『A GI MI』(イタリア語ではJIという表記はないと思う)、『苦いは?』、『NI GA I』。
外国語の発音は日本人にとっても難しいがイタリア人にとっての日本語も同じ。『違う!』といって直させる。
彼のえらい点は今後の対面販売に結びつけることもあるだろうがものすごく熱心なところ。
発音しながら書き留めている。見習わなければいけないなぁ。
蜂蜜も大きい瓶のほうが単価的には安上がりになるが荷物になるので小さいのを4個買って、日本語教師代(と勝手に思っているが)として少しおまけしてもらった。写真をとらせてもらい、帰国後メールで送ることを約束した。
やはり、対面販売はスーパーの買い物よりも面白い。
隔週水曜日、8時頃から開かれているとのことなので再来週また行ってみようと思う。
9月2日
《新しい校舎でとんだ問題が》
借り物の高校校舎から本来の外国人大学の校舎での授業が昨日から始まった。
緑の中の大学らしいキャンパス。
建物はかなり新しい。”Palaziotina Prosciutti”といい、Professore Prosciuttiの業績を讃えて建てられたもののようだ。
今までの高校と違って、机と椅子が一体化したものが一人一人ある。1時間ごとの休憩時間には10分経つと始業のベルが鳴る。
どうも喫煙タイムの終了を知らせるもののようだ。
さて、週1回、木曜17時からのLL授業も今まで唯一、本部のガレンガ校舎だったが今日からこちらに変わった。
変わったことで何が大変だったかというと、2時間の間の《蚊》の大攻勢。
ヘッドフォーンをつけて耳に伝わる音に集中しているときにどんどんやってくる。
日本でも家族に比べて被害が多いカブレーノだが、イタリアの蚊にも好かれているみたいだ。
『こっちの蚊は日本に比べてものすごく小さいけど威力は大きい、日本の虫除けや虫刺されはまったく効かない』と来て早々5年も住んでいる同胞のSさんから言われ、すぐ薬屋さんでこちらの虫除けを買った。
たしかに日本では考えられないような臭いの虫除けスプレー。
まさか、大学の教室でこんな目にあうとは思っていなかった。
ヘッドフォーンの音にも集中できずに、しかも7、8ヵ所もやられてしまうとは・・・・・。
来週は虫除けスプレーを両腕、足首にたっぷりかけてから登校しなければならないかなぁ。
9月3日
《月1回のMostra Mercato》
住まいを出て1分もかからないところの教会前の小さな広場、Piazza Piccininoはふだんは駐車場になっている。
ここで月1回、第1日曜に”Mostra Mercato”という市がある。
1ヵ月前の8月1日、ホテルからこのモノロカーレに移ったときちょうど開かれていて午後にここでパンとチーズを買った。
毎週やっていればいいなと思ったが、知り合いの日本人留学生から月1回、第1日曜だと教えてもらった。
ということは、10月にはペルージャを立っているので自分にとってはこれが最後だ。
行ってみると8月よりお店が多いみたいだ。八百屋も2軒出ていた。
こだわりの自然食品の店が中心のようだが、ほかにも、自然の石鹸、ワイン、各種サルサ類、蜂蜜、工芸品、花屋などなど。
小さなスペースながら結構種類は多い。
同じ店かどうかわからないが、前回買ったパンがモチッとして美味しかったのでまた買う。ほかには、ぶどう1房、オートミール、野菜少々を買った。
またあとでワインを買ってこようと思う。
9月6日
《イタリアのお米は意外にうまい》
こちらに来るときにお米を1キロだけ持ってきた。2キロでも良かったが荷物になるのとどのくらい食べるかわからなかったからだ。
このモノロカーレのキッチンにはガス台がない。
Electrolux電熱式のコンロが大小2つあって、1から6の目盛で火加減を調節するものだ。
これでご飯を炊いてもなかなかうまくいかないのでお米が減らなかった。
スーパーに固形スープがあることを教えてもらってからは、ちょっと面倒だけど我が家でもたまに作っていたリゾットに挑戦、うまくできた。
何度か作っているうちに何とお米がなくなってしまった。
そこでスーパーでリゾット用お米を探すといろんな種類がある。細長いのはリストランテでリゾットを頼むと出てくる種類だと思うが、少しパサパサしているようであまり好きではない。
パッケージに米の絵もあるが小窓があってそこから実物が見えるので日本の米とよく似た”Vialone Naso”というのを選んだ。
これでリゾットのほか普通に炊いてみるとほとんど変わらない。
ちなみに1キロ1.95ユーロと安い(他の種類もだいたい2ユーロ前後)。
イタリアのお米は意外にうまくてしかも安い。
これを知っていればわざわざ持ってくる必要もなかった。
9月7日
《今日はしんどい、10時からの連続5時間授業》
9月に入って初めての火曜日、8月と同じ連続5時間は変わらないが10時から15時までという時間割(なつかしい言葉だ)。
1時間に1回10分の休みがあるだけ。
普段と同じ時間に朝食をとったので15時すぎ昼食ではおなかがすいて午後は多分勉強どころではないだろう。
と考え、朝ちょっと出かけたついでに何回も行ったパン屋さんでブリオッシュ(クロワッサン)とトルタ・ディ・メーレ(アップルパイ)を買って登校、13時に先生が代わったところでパクつく。
で、13時(10分)からの授業の冒頭、先生が『来週から1時間遅らせ14時からの2時間にしましょうか』といったので賛成したところ5人中3人が嫌だという。
火曜の授業はあと2回だから我慢するとしても、3人が反対した理由はよくわからない。
どうも食事のために何もない場所で(といってもバールも食堂もあるのだが)1時間も時間を空けるのは嫌みたいだ。
持参したとはいえ、10分で食べるのも大変だし、まして空腹を抱えて2時間も授業を受けるのもしんどいけど民族の違いなのかなぁと思った。
9月8日
《イタリアで散髪初体験》
日本を出てから1ヵ月以上たち、だいぶ髪が伸びてきた。
帰国まで1ヵ月あるので前からそろそろ床屋(Barbieria)に行かなければと思っていたが、今日は午後からの授業のため午前中はフリー。そこですぐ近くの床屋に行った。
最初覗いたときは待っている人がいたのでちょっと散歩し、少ししてから戻るとちょうど誰もお客がいなくなっていて待つことなくすぐに座らされた。
あまり短くされても困るので『普通に。あまり短くなく。』とお願いする。
バリカンは使わず、鋏とかみそりで手際よく刈ってくれた。
始める前に『シャンプーは?』と訊かれ”Si!”と答えておいたので頭のうしろに置くものを持ってきて椅子の上に取り付け、椅子を180度回転させ仰向けとなって洗髪。
これまた丁寧だ。
髭剃りを頼もうと思っていたが最初に訊かれていたかもしれない。
というのは後から来た隣の若い男性は髭剃りから始まったからだ(実はあとで分かったが彼は髭剃りだけだった)。
案の定、シャンプーが終わると最後の調髪になった。
『旅の恥はかき捨て』と思い、口の周りを差して『お願いできますか?』というと『ああ、髭剃りね。もちろん』と、ふだん行く床屋さんより2回りくらい大きなシェービング・ブラシの真ん中にシェービングクリームを入れお湯であっため伸ばして顔に塗り始める。
蒸しタオルは使わない。
剃るのは日本では椅子を倒すがここでは座ったままで剃ってもらえる。
顔の半分以上首までまるで歌舞伎役者のような白い自分の顔を初めて見た。
これまた丁寧に2回もかみそりをあててくれる。
最後にまた髪を整え終了。所要時間40分。料金は調髪&シャンプーが20ユーロ、髭剃りが6ユーロ、しめて26ユーロ。
以前JALの機内誌の読者投稿で《海外旅行先で必ず床屋に行く》というのを読んだ記憶があるが、床屋さんは変えたくないたちの自分は今までの短い旅行では行くつもりもないしその必要もなかったが今回はやむを得ずの初体験ということになった。
たしかに比較という点ではおもしろいかもしれない。
9月9日
《教材を使ってカルボナーラに挑戦》
今週月曜の会話演習の授業で配られた6ページのプリントは食に関することばかり。
リストランテのメニュー、食材、間食をめぐる会話、パスタの種類、カルボナーラのレシピ、イタリア人の食べる場所などなど。
おとといはこの中のカルボナーラ(Spaghetti alla carbonara)のレシピ(ricetta)で勉強だ。左側には番号が振られた写真が4枚、コピーなのでちょっと分かりにくいが作り方の順のようだ。
右側には4人分の材料が載っていて、その下にレシピとして4つの文章がある。
この文章の順番はでたらめなので、写真のどれと一致しているかを答えるというものだ。写真が分かりにくいので文章をよく読むしかない。
作り方をある程度考えて読むことも必要だ。
2人1組で読みながら相談して考えるということになったが、ペアを組んだインド人は見たことも食べたこともなくて「スパゲッティを茹でる」のが1番だと主張するのでちょっと苦労する。
辞書をひきひき、彼とも折り合い、何とか正解を答えることができた。
日本で紹介されているレシピには生クリームを入れるのが多いが《本場はそうではないらしい》とどこかで聞いたことがある。今回の教材のレシピは使っていない。
せっかく勉強したことだし、自炊生活をしているので早速挑戦してみた。
材料の卵、パルミジャーノ、スパゲッティは手元にあり、なかったのが主役のパンチェッタ(ベーコンのようなもの、ただし、先生の説明によるとベーコンほどスモークされていないらしい)。
たまたま、すぐ近くの食料品店に夕食用の、というよりはワインのつまみとしてサラミを買いに行ったときにキューブ状のものがパック売りされていたので買い、材料は全部そろった。
解読に苦労したレシピを和訳し順番に書き直してそれに沿って作り今日のランチにした。
結果は”Molto buono!!”。
【レシピ】
材料(4人分)スパゲッティ320g、パンチェッタ200g、卵4個、すりおろしたパルミジャーノ・レッジャーノ80g、オリーブオイル、塩、胡椒
1.キューブ状にしたパンチェッタを少量のオイルとともにアルミの浅鍋でキツネ色に炒める。
少量の水を加え、中火で10分煮詰める。
2.卵、パルミジャーノ、胡椒を皿に入れ混ぜ合わせる。
3.スパゲッティをアル・デンテに茹で、湯切りして浅鍋に入れて混ぜる。このときオリーブオイル、塩などの調味料を加えるとよい。
4.そこに、パルミジャーノと混ぜ合わした卵を入れ、一緒にして良く混ぜて熱々のうちにどうぞ。
9月13日
《朝から宿題》
イタリア語学留学で《イタリア語》の授業で、というのはちょっとおかしいが、週20時間のうち1回3時間、週4日(月~木)ある授業はそのものズバリ《Lingua italiana》という。
この授業は金曜が休みなものだから、『月曜までに』という宿題が毎週のように出る。
週末に旅行で出かけるカブレーノにはちょっとありがた迷惑(?)だ。
いつもはその日のうちにやるようにしているが今回は確か水曜に宿題が出たと思うが、9月になってから水曜は15時~18時の授業、そして翌日木曜は8時~11時の授業なので水曜の夜にやる気はおこらない。
木曜の夕方、別の授業があるのでそのあとにすることになるが先週は多分ワインでいい気分になったんだろうと思う。
宿題の内容は、《あるシェフがいて、自宅の近くに住んでいる女性にほのかに好意をいだいている。ある日、その女性が自分の働いているリストランテに客として男性と一緒にやってくる。やきもちを焼いたシェフは滅茶苦茶な味付けをして料理を出す》というストーリー(これ自体もいくつかの漫画を見て授業で作り上げたもの)の続きを考えるというもの。
考えるのは木曜夜にできたが、イタリア語にするのにはちょっと飲みすぎていたようだ。
モデナ&サン・マリノへ出かけるとき、考えたストーリーの走り書き(日本語)を持って行こうか考えたがどうせやらないだろうと思い、日曜夜、帰ってきてからやることにした。
日曜夜、とりかかったが眠くて眠くてたまらない。『どうせ、いつものように6時頃には目がさめるだろう』と思って早めに就寝。
ところが、よほど疲れていたんだろうか、今朝は目覚ましで起こされた。
起きてから思い出したのは、今日は先生の都合で15分ほど遅く始まるということ。
朝食もそこそこに朝から宿題にとりかかる。何とか間に合った。
こんなことは学生時代にもなかったことだ。
9月14日
《雷雨で秋の装いに》
昨日のペルージャは朝から晴天だったのに夕方から雲が広がり、夜には激しい雨。そのうち雷もなりだすという変わりようだった。
今回のイタリア滞在生活ではフィレンツェで同じ日に2回、こっちに来てからもトーディへ日帰りの旅をしたとき、そしてペルージャでも前にあったような気がするが、雷には随分好かれているようだ。
そんな雷雨の翌日、以前なら8時始業なので出かけるときおそらく肌寒さを感じたと思うが今日は10時始まりということもあって、晴天の下、むしろあったかいくらいだった。
夕方、運動不足解消のため散歩をしたとき自分は半袖姿だったがそれでも風の冷たさを感じることはなかった。
しかし、おもしろいもので街を歩く人の装いはかなり変わり、長袖姿が多くなっている。
9月半ばだから当然といえば当然だが、メイン・ストリートのヴァンヌッチ通りやオベルダン通りのブティックのショー・ウインドゥはすっかり冬のファッションに変わっている。
夕方、ドゥオモ前を通りがかったときステージが設営され沢山の椅子も用意されていて何かイベントが行われそうだったので20時半ごろ行ってみた。
夏なら始まったくらいの時間だと思うが、もう終わっていて椅子も全部片付けられてしまっている。
ヴァンヌッチ通りを通り抜ける風は冷たく、もうすっかり秋だった。
通りに出ている大きな傘のカフェにもほとんど客がいない。夏にはあふれるほどいたのに。
冬になれば、カフェも店を出さなくなり、通りは本当に《通りだけ》になってしまうと聞いたが、それもそうだなと納得させられる光景だった。
7月31日に来てからもう1ヵ月半経ったんだなぁ、と改めて思った。
9月15日
《今日は日本語三昧》
今日は11時からの授業。その前に隔週水曜のメルカートに行く。
2週間前に日本語を教えた蜂蜜屋のおじさんの成果をみるためだ。
ところが、どうしたことか蜂蜜屋さんは来ていない。
ぶらぶらしてから前と同じワインの店で白ワインを1本買う。
今日も『3本買えば安いですよ』と食い下がられたが、ここは心を鬼にして1本のみ。
これで戻ろうとしていたら、広場のちょっと先で『日本の方ですか?』と同胞の同世代とおぼしき女性から声をかけられた。
『そうですよ。旅行ですか?』と答えると、友人と個人旅行で来ていて友人と別れ、ローマに荷物ををおいて2泊でペルージャに来ているという。
『行きたい所があるので知っていれば教えて欲しい』と見せられた雑誌のページは自宅にもある確か10年ほど前のFIGAROだ。
昔の水道橋のアクアドット通りとそのそばのアッピア通りでちょっとわかりにくい場所だ。時間があるので案内することにした。
こっちもそのルートからは1度しか行ったことがなく見事に間違えたが、何とか案内することができた。
11時から授業があるので別れたが、授業後いったん自室へ戻り昼食後、次の授業までの間に近くのミニ・スーパーに買い物に行った帰り、カフェで食事をしているところを見かけ、お互い気づき、座って話をする。
カブレーノと同じように以前からイタリア旅行をし、定年で仕事をやめたので今回はローマを拠点に1ヵ月だそうだ。
すごいな、と思うとともに女性の一人旅では食事の点では大変だろうなとちょっと同情する。
カフェのすぐ近くのプリオーリ宮殿の見所を教えて別れた。久しぶりに日本語で話をした。
夕方は、ペルージャに来るきっかけを作ってくれたヴァイオリニスト留学生とこれまた久しぶりのアペリティーヴォ(食事前にカフェで一杯。店によってはつまみが充実しているので軽い夕食にもなる。)。
9月から同じ外国人大学で勉強している人も一緒になった。その後、以前アペリティーヴォをしたことのある人、そしてペルージャの男性と結婚している人も加わって5人で日本語で、イタリアのこと、学校のこと、授業のこと、日本のこと、などなど大いに会話を楽しんだ。
あーあ、今日は久しぶりに日本語をしゃべり、聞いたなぁ。